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ペギー・グッゲンハイム・コレクション


イタリアの水の都、ヴェネツィアが大好きな私は、度々この地に足を運びます。
仮面のカーニヴァルに参加したり、テレビ番組の撮影をしたり、ピナ・バウシュの劇場公演にスケジュールを合わせて、1週間を共に過ごしたり・・・。
滞在理由はさまざまですが、何度訪れても、この町は奇跡のように美しく、旅人の心を弾ませてくれるのです。
水のたゆたう音を聞き、ただ路地を歩いているだけで、嬉しくって、私の頬は緩みっぱなし。
通り過ぎる人々が、にこにこしている私を「変な東洋人がいる」と怪訝そうに振り返っているかもしれませんが、そんなこと、構ってなんかいられませんよね。

飛びっきりの気に入りの場所があります。
それは、ペギー・グッゲンハイム・コレクション。
どんなに忙しい旅でも、ここに出かけないではいられません。
アメリカの大富豪グッゲンハイム家に生まれた彼女(1898−1979)は、潤沢な資金を使って、20世紀現代美術の一大コレクター、パトロンとなり、戦時中は迫害されたヨーロッパのアーティストをアメリカに亡命させるサポートをしたりもしていました。
ペギーが暮らしたヴェネツィアの邸宅が、今はそのまま美術館になっています。
そこに飾られている作品は、マン・レイ、マックス・エルンスト、マルセル・デュシャン、ジャコメッティ、パウル・クレー、ルネ・マグリッド、ポール・デルヴォー・・・などなど。
そのコレクションは、私が若い時代に(もちろん今も)熱狂したアーティストたちの時代と、ぴったり重なるのです。
この美術館に身を置くと、彼らと再会できた喜びで、私の心はいっぱいになります。
繰り返し同じ絵の前に立つ それは青春時代の私自身との対話でもあります。


ペギー・グッゲンハイム・コレクションの入口。
細い運河添いに、さりげなく姿を現します。

ペギーお気に入りの大理石の椅子。

庭の奥に、ペギーが眠っています。
その横には、カプチーノやペギーンなど、
彼女が愛した14匹の犬のお墓が。

グランド・カナル添いの船着き場では、
マリノ・マリーニの彫刻が出迎えてくれます。



実を言うと、ニューヨークのグッゲンハイム財団が管理運営に乗り出してから、かつては緑のなかに彫刻作品がふんだんに飾られていた広いお庭が縮小され、チケット売り場やカフェやショップになってしまって、ちょっと残念なんですよね。
でも、私の中では、ペギーの邸宅がそのまま開放されていた以前の雰囲気がまだ生きていて、私は、会ったことのない古い友人を訪ねてきた気分になるんです。
いかにもミュージアムという作りに変わった展示室も、「あ〜、ここはペギーのベッドルームだった。天井にはカルダーのモビールが揺れていたな」とか、「ここではエルンストの『森』が出迎えていて、幻想の世界に誘ってくれたな」とか、古い記憶が溢れだします。
それは、それは、甘い懐かしい情景・・・。

いつも必ず、長々とその前に立ち、挨拶を交わす作品がいくつかあります。
特に、あまり知られていない小品は、展示から外されてしまったかもしれないと不安に思いながら、探すのですが・・・。
たとえば、パウル・クレーの『魔法の庭』。
クレー独特の繊細な線と色彩が奏でる、美しい軽やかな音楽に包み込まれるように、このうえなく幸せな空間を味わうことができます。


パウル・クレー『魔法の庭』



「久しぶり、また会えて嬉しいわ」
と思わず声をかけるのは、マックス・エルンストの『ポストマン・シュヴァル』。
100年あまり前、郵便配達夫のシュヴァルさんが、毎日足元に転がっている石を拾い集め、たったひとりで、ついに33年間をかけて、南フランスの田舎町に彼だけの理想宮殿を作りあげた、というエピソードをご存じですか?
私もはるばる旅をして、見に行ったことがありますが、そのあまりの不可思議さに圧倒され、しばし茫然としていたのを覚えています。
エルンストも同じように刺激を受けて、このコラージュ作品を、シュヴァルさんに捧げたのでしょう。


マックス・エルンスト『ポストマン・シュヴァル』



来月、私はまた彼らに会いに、ヴェネツィアに飛びます。
何十年と積み重なった熱い思いを、きっと今度も優しく歓迎してもらえると、期待しながら・・・。


2016年4月30日  

楠田 枝里子