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ジャン゠ポール・エヴァンさんの、ラボラトリー


なんて幸せなことでしょう!
ショコラ界のスーパースター、ジャン゠ポール・エヴァンさんの、パリのラボラトリーに入れていただいたのです!!
そこは、エヴァンさんが次々に新しい作品を生み出す、秘密の実験室。
ここでエヴァンさんが認めたクリエーションのみが、郊外の製造所で生産され、世界中に運ばれていくのです。

私はまず、二十数年の歴史を持つ、ピケのブティックへ。
広々とした店内には、数えきれない美しいチョコレートが輝いていて、それでもう大歓声です。




特に、何種類ものアマンドショコラが、サマーコレクションとしてプレゼンテーションされているボックスの、まあ楽しいこと、華やかなこと!
日本では手に入らないので、お友だちへのお土産に、5箱も買ってしまいましたよ。


「あまりに美味しくて、手がとまらない」
と大好評です。


あ、でも私の目的は、ラボラトリーにお邪魔すること。
ブティックの奥の秘密の扉を開け、細い通路を進んでいくと、その先の空間がラボでした!
たちまち、私は極上のチョコレートの香りに包まれます。
取り巻く空気が一変しました。
大通りの人の賑わいも、車の往来も、ここまでは届かない。
心地よい静謐の中で、ごくわずかに耳にするのは、リズムを刻む機械音だけ。
原産地から届いたカカオ豆を選別し、焙煎し、たくさんの工程を経て、珠玉のチョコレートが生み出されていきます。
少しずつ、温度を変えたり、繰り返しの作業を行ったり、厳密で繊細で粘り強い試みが続いています。




コンチングやリファイニングの工程はよく知っていたのですが、結晶化という段階のマシーンを、私は初めて確認しました。
蛇口から、つややかなチョコレートが流れ出ていた機械です。
コンチング(精錬)を経たチョコレートを結晶化(クリスタリザシオン)させる。
温度調節(テンパリング)をして、細かい分子の状態を安定させて固めるってことなんですって。
どのような温度曲線を描いて結晶化を進めるかは、とても重要。
カカオの種類によっても異なるそうで、経験と時間を要する、非常に緻密で難しい作業なんですね。
これによって、チョコレートにツヤとパリッとしたテクスチャーが生まれ、型離れも良くなります。
この過程がうまくいっていないと、ツヤがなくなり、白化しやすく、食感も悪いのです。
チョコレート作りはまさしく化学(!)と、改めて感嘆しました。
(あ〜、私、大学の専攻が応用化学で、良かった〜。)

この実験室で、ことのほか興味深かったのは、カカオ豆の選別でした。
カカオ農園から届いた麻袋のなかから、小石などの混ざりものを取り除き、ランダムにカカオ豆をピックアップし、半分に割って、ひとつひとつ発酵の状態を確かめていきます。




同じ農園で、同じ時期に収穫され、同じ場所で一緒に発酵したカカオ豆なのに、こんなに差が出ているとは、驚くばかり。
私が立ち会ったさいには、10個のカカオ豆のうち、とても良いコンディションのものが2個、紫色に変色していたのが2個、カビがわずかに生えていたものが2個、あとはまあまあ、という結果でした。
カビは発酵特有のもので、人体に害はないのですが、味わいを下げてしまうので、カカオの旨みで勝負するガナッシュには使えないんだそうです。




10個のうち、2個がカビていた段階で、このカカオはエヴァンのチョコレートとしては失格。
使用ランクを下げて、ピエスモンテのデコレーションに使うことにしたそうです。
ピエスモンテは、大型の装飾菓子のこと。
つまり、イベントなどで使われるチョコレート細工の飾りにしかならない、ということなのですね。
もし10個のうち3個カビていたら、それにすら使えなくて、容赦なく返品、ということになるようです。
まあ、これほど徹底したカカオの選別を、私は見たことがありません。。
ここまで原材料にこだわり厳選しているからこそ、ジャン=ポール・エヴァンのチョコレートはあれほど美味しいのですね!

エヴァンさんが、ここで制作中のバースデーケーキの試作品を、見せてくださいました。




大きな円柱形のミルクチョコレート・ケーキには、一面にアーモンドが。
ダーク・チョコレートには、ピスタッツィオが散りばめられています。
わ〜、ステキ〜、と思わず声を上げてしまいました。
実にエヴァンさんらしい、洗練された美しさと、顔がほころぶ楽しさに満ちています。
(ケーキの中には、カリカリ食感を忍ばせたプラリネや、カカオニブ、軽いアーモンドのメレンゲに、ほろ苦いチョコレート・ムース・・・おめでとうの気持ちが踊っているような、飛びっきりの味わいと食感ですね!)
エヴァンさんは、こんなふうに考えているそうです。
「ファッションショーに行くと、必ずコレクションの最後に、そのメゾンならではの「決め」のようなウェディングドレスが登場する。
パティスリーの世界にはその習慣はないけど、ボクはエヴァンのメゾンならではの、自分らしいバースデーケーキを生み出したかったんだ。
チョコレートで、シンプルで、カカオの味が際立っていて、それでいて祝祭的なものを。」
その思いは、大成功。
プレス発表会での大きな拍手が、聞こえてくるようです。
あ〜、このケーキ、日本でも発売してくれないかあ〜。
私、絶対に、注文しちゃうな。
勿論、ダークチョコレートで、飾りは欲張って、アーモンドとピスタッツィオの両方(笑)!!

ラボラトリーの面白さに大興奮した私は、その後、オープンしたばかりのサントノレのブティックに案内してもらいました。
驚くことに、ここは光り輝く黄金の空間。
これだけゴールドの主張するスペースなのに、品良くまとめているセンスは、さすがエヴァンさんですね。




さらに、このブティックの奥には、秘密のお部屋があってね、そこで、チョコレートや種々の飲み物を楽しむことができるんです。
ちょっとしたパーティや待ち合わせにも、使えますよね。
そこもゴールドに包まれていて、う〜ん、なんとも贅沢、ゴージャス!




愉快だったのは、おしゃべりしながら、エヴァンさんが気の向くままに、複数の飲み物を混ぜ合わせて、新しい味わいを探し始めたこと。
ここでも、実験!?
さらに、奥様に伺ったら、エヴァンさんはご自宅でも、暇さえあればテイスティングしているそうです。
ジャン゠ポール・エヴァンにとっては、この世界の全てが実験室。
エヴァンさんは、ひたすらチョコレートに真摯な眼差しを注ぎ続ける、研究室の科学者(!)でした!!


2018年7月28日  

楠田 枝里子